抜粋やぶにらみ続編 もういくつ寝ると
2010-04-24


紐育からの便が約一時間の延着で出発もそれなりに遅れるらしい。 既に成田空港は墨汁色の空で、星もでていない。 今日は霜月の最後、明日からは師走の誘導路を往来するジャンボジェットの衝突防止灯だけが、動き回る。 ファーストクラスラウンジには世界に旅立ついろいろの国の人々はそれぞれの思いで、出発便の案内を待っている。 セルフサービスのバーに足しげく通う人は、いかにもアメリカ人らしく飲みっぷりも大胆だ。 だれも見ていないCNNのニュースラインのアナウンサーは例によって早口言葉、でもニュース種は無限らしく、ヘッドラインは賑やかである。 香港の子供の名付け親になっているので、ひとあし早いクリスマスギフトを届ける空の旅だ。
もう一杯ビールでもと立ちかけた途端、香港行きの搭乗案内があり数名の待ち合い客が席を立った。 小生も後に続き夜間飛行の客となった。 幸いにも隣席は空席で香港までのフライトはゆっくり過ごせる様子でホッとする。 お喋り好きなアメリカのオバさんなどと同席になると、とてもゆっくりなどしておれぬ。 悪い習慣で未だに禁煙が出来ずスモーキング席を占拠するのが通常であるが、こんなオバさんが隣だと早くタバコをやめないといけないと自戒の念に浸ってしまう。 喫煙量だけではなくどうして灰を灰皿にキチンと始未出来ないのか理解に苦しむし、またちゃんと消さないので煙りがいぶる。 これは喫煙者にも大変に迷惑な事なのに、全然判ってくれない。 その上孫がどこに住んでいているとか、親の仕付けがどうとかまくし立てられても、こちらにはまったく関係がなく、迷惑が肥大するだけ。

一時間遅れで成田を出た香港行きは三宅島を過ぎるとシートベルトサインも消えた。 乗務員が中央のサービステーブルに花を飾りグラスを並べる。 ドンペリニョンをお代わりする頃には、食事のサービスとなるのが通例で、夕食は液体中心の小生にとってはちょっと重荷の時間になる。 香港までは約五時間のフライトだから三時間はゆっくり飲みたいのが本音の小生だから、ついつい食事はスケッチをすませるとお返しして主力はドンぺリさんになってしまう。 乗務員もそつがなく最後には瓶ごと隣席に置いてくれたりする。
シャンパンクーラーを軽くシートベルトで押さえて、平手神酒を気取るひとときこそ飲ん平馬鹿にとってファーストクラスフライトというもの。

香港の人々は宵っ張りで、十二時近い時間なのに、まだ各家とも煌々と明かりが灯っているアパート群をかすめる様に滑走路に向けてカーブが始まる。 考えてみれば屋根裏をジャンボジェットが三分間隔で飛び越されるのだから、寝てもいられまい。 テニスコートに主翼の端が引っ掛からないのが不思議な様な一瞬、機体は水平を取り戻しドドンと接地、『皆様当機はただ今香港啓徳空港に到着しました』と相成る。
この香港空港には、ファーストだろうが、エコノミーだろうが、出入国手統きにまったく差別がないと言ってよい。 ロンドンなどのファストーレンなど勿論ない。 従って搭乗機の扉が開くや脱兎のごとく入国審査場にいかないと延々と続く行列に加わる事になる。 すいているゲートは香港住民用で誰もいなくても融通性には疎い。

その上なぜこんなに時間がと思う位パスポートチェックに時間を掛ける。 でも隣の審査官とはそんな作業の間にも、無駄話をしている官吏がいたりする。
第一幕の入国審査の後は第二幕の手荷物受け取りであるが、ひとつの回転台に二〜三の便の荷物が乗っかって出てくるので、繁雑極まりなく時間がかかる。 航空会社にコネのある乗客などは別途に係員が荷物を運んできたりしているが、一般は唯々待つのみである。 優先タグを成田で付けるが、あまりこの空港では効果はない。 税関審査だけは日本人には寛大でほぼフリーパスで通過出来るのが利点といえば利点だ。

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